除災の民俗 ― 年中行事に見る災厄払い ―

2025年の台風12号は、南さつま市内各地に大きな被害をもたらした。様々な災厄を私たちはどのように払おうとしてきたのか。自然への畏怖と知識を、年中行事の中から考えてみたい。

雨乞い石「鳴石」ガンガンドン祭り

まず、水難除けと雨乞いの習俗を見てみる。金峰町高橋のヨッカブイは、棕梠の仮面を被る大ガラッパ(河童)が、笹で集落民を祓い、悪いことをする子供たちを諭して回る。水神祭り、水難除けの祭りだ。一方、加世田には雨乞いの祭りも残る。内山田では、「叩くと暴風雨が起こる」鳴石のガンガンドン祭りが伝わる。祭典のあと、毎年岩を取り囲む竹矢来を取り換えていたが、2016年にプラスチック製の擬竹に替わった。

次に、厄病退散・災厄払いの習俗を見てみよう。正月七日の鬼火焚きは、正月飾りについてきた悪霊(鬼)を、火と竹のはじける音とで追い払う。2月には市内各地でお伊勢講と疱瘡踊りが見られる。笠沙町片浦のお伊勢講では、振り子のケン(踊り子の木刀)で叩かれると一年無病息災という。大浦町では伊勢道中を芝居に仕立てた馬方踊り、それに続く疱瘡踊りが伝わる。いずれも伊勢神の力にあやかり疱瘡退散を願う習俗だ。加世田万世の十五夜綱曳きずりは、大綱を曳いて集落を清め回る「節変わり」の習俗。そのほか、平家の落人伝説が伝わる大浦町大木場では、源氏の追っ手をシャットアウトするため、ヤマンカン祭りで大草履を掲げる。

柳田國男や小野重朗の研究によれば、風流を伴う夏祭りが、水の恵みと恐れや稲の害虫を除くことを目的としたものという。水の恵みへの感謝と恐れ→豊作祈願、ムラとムラ人の無病息災→健康祈願の習俗として、除災の民俗は語り継がれている。

(2025・10・2市民大学講座「南さつまの歴史・民俗・自然」講話要旨。井上賢一) 

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