もう一つの十五夜綱引き ― 十五夜行事から見える再生と除災の民俗 ―

 綱引きは全国各地に見られるが、八月十五夜に引くのは南九州独特である。その構造は、①材料集め→②綱作り→③綱引き→綱の利用と綱流し。③の綱引きには「綱引き」と「綱曳きずり」とがある。

唐仁原の十五夜綱曳きずり(1992)

【綱引き】 南さつま市加世田鉄山では、綱が出来上がるととぐろ状にして月の出を待つ。同市坊津町泊では、綱引きが終わると、綱を川に投げ入れる。坊津町上之坊では、綱引きの途中で綱を鋸でわざと切り、つなぎ合わせて再び引き合う。そのあとの、綱練りで用いた小綱をつなぎ合わせて輪を描く「お月さんづくり」の掛け声は、櫓掛け式綱練りのものと同様で、動作も似ている。

【綱曳きずり】 南さつま市加世田の万世地区では、「十五夜お月さん早よ出やれ」の歌を唄いながら、子供たちが集落を綱を曳きずって回る。これを綱引きと呼び、いわゆる綱引合戦はやらない。

 十五夜の綱は、脱皮して再生する蛇の象徴と考えられる。月も、満月新月を繰り返す。つまり、十五夜の綱は死と再生を繰り返し、不老不死・健康祈願、豊作を願っている。上之坊のお月さんづくり習俗も綱練りの再現だろうか。

 綱曳きずりは、竜蛇に見立てた綱で集落を清めて回る除災・防災の習俗と考えられる。上之坊の綱切りや泊の綱流しもその意味だろう。また、綱引きの翌日、綱を切断して緑肥にするのも、土に戻す(返る)、これも除災と再生につながるだろうか。

 つまり十五夜綱引き行事は、十五夜という節目に、畑作物の豊作を感謝し(満月→夜露→水→豊作を連想)、月と竜蛇とにあやかって、綱を通じ、参加者の健康を願い、集落を清め、次作の豊作を願う、「再生」と「除災」の民俗を言える。

(2024・10・6 第14回「そらまどアカデミア」講話要旨。井上賢一)


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